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第272話 

松本若子は遠藤花から送られてきた「ちゅっ」というスタンプを見て、短い会話が終わったことを確認し、スマホから顔を上げた。

すると、藤沢修がまだ彼女をじっと見つめているのに気がついた。

「楽しそうに話してたな」彼の声は淡々としていたが、その奥に隠れた意味が感じられた。

若子は軽くうなずいた。「ええ、すごく楽しかったわよ」

彼女はスマホを脇に置き、「どうしたの?何か文句でもある?」と問いかけた。

「文句なんてないさ。お前が楽しそうで何よりだよ。遠藤西也はずいぶんお前を喜ばせるのが上手みたいだな」と彼は少し不機嫌そうに呟いた。

「あら、さっき話してたのは遠藤さんじゃないのよ」若子はさらりと言った。「別の友達よ」

「別の?」藤沢修の眉が一気に険しくなった。「お前、友達多いな。次から次へと話す相手がいる。いったい何人の『予備』を抱えているんだ?」

彼は遠藤花を男性だと思い込んでいたのだ。

若子の目に悪戯っぽい光が宿った。

藤沢修って、本当に単純だな。

彼女は訂正せず、わざと軽く笑って答えた。「そうよ、私は今やリッチな女なんだから、いくつか予備を持ってるのも当然でしょ?次の相手は、もっと言うことを聞いてくれる人にするつもり。私が言うことなら何でも従ってくれるような人がいいわね」

藤沢修は布団の中で拳を握りしめ、「そうか?それなら、お前の予備の中で一番言うことを聞くのは誰なんだ?遠藤西也か?それとも、さっきの奴か?」と少し苛立った口調で言った。

「さあね…まだ観察中よ」若子は鼻先を軽く触りながら答えた。「離婚したばかりなんだから、まだしばらく自由に楽しむつもり。広い世界が待ってるのに、以前みたいに一つの木に縛られるなんてあり得ないわ」

彼女が言った「木」が自分を指していると気付いた藤沢修の顔に、さらに暗い陰が浮かんだ。

「俺と結婚して、そんなに不満だったのか?」藤沢修は表情に明らかな不快感を漂わせながら、「俺は手放してやったんだから、もう意地悪な言い方はやめろ」と直球で言った。

「意地悪なんてしてないわ。むしろ聞いてきたのはあなたじゃない。答えただけなのに、なぜか怒るなんて、あなたって本当にケチだね」

「お前…」藤沢修の胸に強い感情が沸き起こり、収まりがつかない。

彼はふっとため息をつき、拗ねたように体を反転させ、枕に顔をうずめた。

若子は一瞬
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